「居合道の手引き」より抜粋
立膝四本目 浮 雲







意義 我が横に座す右側二人目の敵が、我が刀の柄をとろうとするのでこれを脱して、敵の胸部に斬りつけ右に引き倒してその胴に斬り下す。
動作
一、抜き付け
1 敵が我刀の柄を取ろうとするので、左手は鍔下を握り拇指は鍔を押えて立ちあがり、左足を左斜後方に半歩退き柄も体と共に左方に引いて敵手を脱す。右手は軽く握り右股の上におき顔は敵方に向けて敵を注視する。
2 退く敵を追うようにして、中腰になりつつ左足を右足の直前に足先を右方に向けて軽く踏み込む(左足を右足にからませるようにして、体重を右足で支える。)同時に刀柄を高く右胸前に運び右手を柄にかける。
この態勢のまま捻るようにして上体を右に向け、更に右下方に曲げて直ぐ左上方に回して起しながら刀も抜きつつ、上体がもとの左正面向きとなると同時に刀も六~七センチまで抜きあげる。
註 上体を起す時、刀も同時に抜きあげる。
3 十分に左上方に抜きあげるや、両膝を割て腰を落し鞘手も十分に引き、左足は足裏が上向くように裏返しにヒックリ返えすと同時に、更に腰を落し両膝を曲げこのハズミを以て、退かんとする敵の胸部に抜き付ける。
(1) 抜刀の刀勢が決まるのは両膝を割り右膝を曲げ、左足を裏返しにして足の甲を床につけ膝を曲げるのと、腰を落して左に捻るの調子が揃って決る。
(2) 抜きつけたとき両膝は開いて曲げ、腰を十分に落し体重は右足で支え、上体は少しく前に屈め、右拳は右腰の右方約二十センチ付近で刀刃は斜右下に向き、刀先は稍々上向きとなる。
二、引き倒し
1 抜きつけるやその刀を動かすことなく、裏返した足をその場で元にかえして踏み、体を敵の方に向き直るのと同時に、刀の腰棟を指を揃えて伸ばした左手の拇指と食指の基部で押え、同時に右膝を左足踵の直後に着く。押えるのと膝着は同時にする。
刀は抜き付けたままの姿勢で動かさぬこと。
2 刀棟を押えたまま右拳を少しあげ刀を水平にして右方に押し、敵体が傾きかけた時右後方に刀刃が右下方に向くようにして、右拳を少し上げ両手を以て引き倒す。押し押えつけるような心。
この時の形は右腕は少し湾曲し、右肘は肩の高さ、左腕は伸び刀棟を押えた手は物打付近にあり、我が下腹前辺にくるまで引。
三、振り冠り
1 引き倒した刀を左手で右斜め上方にパッと勢よくはね上げ、右手は拳を右に返して拳が上向くようにし、右肩よりも少し高く、刀刃は右前に向き八相の構えの如くになる。
2 左手は刀をはねあげると同時に、柄をパチリと音がする程に握り、直ちに右膝を軸に上体を左足の方向に向き直りつつ諸手上段となる。
四、打ち下し
1 諸手上段となるや、引き倒した敵の胴体に対し吾が左股の外側にこれと併行に打ち下す。
2 打ち下しは斜方向にならぬよう左股の外側に併行すること。
五、血振り、納刀血振り以下、前業に同じ。
ただしこの際は左足前故左足を引いて納刀し、左足を一歩前に踏み出してこれに右足を引きつけて立ち後、正面向きとなる。

居合兵法極意秘訣 より
大森流居合之事
この居合と申は大森六郎左衛門之流也
英信に格段意味無相違故に話して守政翁是を入候 六郎左衛門は守政先生剣術の師なり新陰流也
上泉伊勢守信綱の古流五本之仕形有と言或は武蔵守卍石甲二刀至極の伝来守政先生限にて絶
この居合(大森流)は、大森六郎左衛門の流派である。英信流に特段違いがない事から、(長谷川英信に)話して英信流に取り入れた。六郎左衛門は守政先生の剣術の師匠であります。新陰流であります。
上泉伊勢守信綱の古流五本の仕形があったと言います。或いは、武蔵守卍石甲二刀の至極が伝わっていたとも言われています。しかし、守政先生の代で絶えました。
初 発 刀
右足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震し立時足を前に右足へ踏み揃へ右足を引て納る也
左 刀
左の足を踏み出し向へ抜付け打込み扨血震して立時足を前に左の足へ踏み揃へ左足を引て
納る也
右 刀
右足を踏み出し右へ振り向抜付け打込み血震納る也
当 刀
左廻りに後へ振り向き左の足を踏み出し如前
陽進陰退
初め右足を踏み出し抜付け左足を踏込で打込み開き納又左を引て抜付跡初本に同じ
流 刀
左の肩より切て懸るを踏み出し抜付左足を踏込抜請に請流し右足を左の方へ踏込み
打込む也扨刀を脛に取り逆手に取り直し納る膝をつく
順 刀
右足を立左足を引と一所に立抜打也又は八相に切跡は前に同じ
逆 刀
向より切て懸るを先口に廻り抜打に切右足を進んで亦打込み足踏揃へ又右足を
後へ引冠り逆手に取返して前を突逆手にて納る也
勢 中 刀
右の向より切て懸るを踏出し立って抜付打込血震し納る也
此事は膝を付けず又抜付に払捨て打込事もあり
虎 乱 刀
是は立事也幾足も走り行く内に右足にて打込み血震し納る也但し膝を付けず
抜 打
坐して居る処を向より切て懸るを其の儘踏ん伸んで請流し打込み開いて納る也
尤も請流にあらず此処筆に及ばず
以上十一本